「夏は牝馬を狙え」——競馬を続けていると、どこかで耳にする格言です。暑さに強いのは牝馬で、夏場は牡馬が消耗する、というのが定番の理屈。馬券を買う人なら一度はこの言葉に頷いたことがあるはずですが、その一方で「本当にそうなのか、なんとなく言われているだけでは」と感じる人も多いのではないでしょうか。
これは中央競馬でよく言われる話ですが、地方競馬でも本当に成り立つのか。地方競馬の全レースで、月ごと・季節ごとに牝馬の成績を調べました。なお、牝馬しか出ない牝馬限定戦は除外し、牡馬と牝馬が同じレースで走る「混合戦」だけを対象にしています(牝馬限定戦を入れると牝馬の勝率が水増しされてしまうため)。格言が当たっているのか、当たっているならどの程度なのか、そしてそれが馬券の役に立つのか——順番に見ていきます。なお、性別だけでなく夏は1番人気が崩れやすいという季節の波もあり、夏は人気と性別の両面で見直しどころが増えます。
牝馬の勝率は、夏にきれいな山をつくる
まず、混合戦における牝馬の勝率を月別に並べたのが下のグラフです。
見事な山型です。牝馬の勝率は冬(1〜2月)の7.3%を底に、春から上がり始め、8月に10.1%でピーク。そこから秋・冬にかけて下がっていきます。同じ牝馬でも、冬と夏では勝率が3ポイント近く違う——「夏は牝馬」は、地方競馬でもはっきり数字に出ていました。
注目したいのは立ち上がりの早さです。牝馬の勝率は梅雨入り前の5月(8.6%)からすでに上向き、6月(9.1%)にはっきり伸びます。つまり「真夏になってから」では少し遅く、初夏のうちに先回りして牝馬を見直すのが、まだオッズが甘いうちに妙味を取るコツ。一方で9月(9.6%)はまだ高水準ですが、10月(8.6%)から失速が始まるので、秋が深まったら通常評価に戻していくのが目安です。
夏は、牡馬との差が「ほぼ消える」
もっと大事なのは、相手(牡馬)との比較です。混合戦である以上、牝馬は牡馬と直接戦っています。季節ごとに、牝馬と牡馬の勝率差を見てみましょう。
| 季節 | 牝 勝率 | 牡 勝率 | 勝率差 |
|---|---|---|---|
| 春(3〜5月) | 8.1% | 11.3% | -3.2pt |
| 夏(6〜8月) | 9.7% | 10.5% | -0.8pt |
| 秋(9〜11月) | 8.8% | 10.8% | -2.0pt |
| 冬(12〜2月) | 7.5% | 11.5% | -3.9pt |
牝馬は通年では牡馬に勝率で劣ります(差はすべてマイナス)。これは自然なことで、力関係としては牡馬が上です。ところが——その差が夏だけ大きく縮みます。冬は牝が牡に3.9ポイントも離されるのに、夏はわずか0.8ポイント差。夏の牝馬は、牡馬とほぼ互角まで詰め寄っているのです。
つまり「夏は牝馬」の正体は、牝馬が突然強くなるというより、夏は牝馬と牡馬の力が拮抗する(=牡馬の優位が消える)こと。逆に冬は牡馬が圧倒的で、牝馬は明確に割引が必要、ということになります。
最大の発見:夏の牝馬は「回収率」でも牡馬を上回る
勝ちやすさだけでなく、儲かるかも見てみます。ここが今回いちばん面白いところです。
| 牝馬 | 牡馬 | |
|---|---|---|
| 夏・単勝回収 | 73% | 71% |
| 冬・単勝回収 | 58% | 74% |
夏の牝馬の単勝回収率は73%。同じ夏の牡馬(71%)を上回っています。回収率はオッズ(人気)を織り込んだ数字なので、これは「夏の牝馬は、強さのわりにまだ買われ足りない」ことを意味します。市場は「夏は牝馬」を知ってはいても、オッズに反映し切れていない、というわけです。
反対に冬の牝馬は単勝回収58%と全季節で最低。勝てないうえに回収率も低い、二重に手を出しにくいゾーンです。「牝馬は通年同じ」ではなく、夏は買い・冬は消しと、季節で評価を変えるべきでした。
なぜ夏に牝馬が走るのか(解釈)
ここからはデータではなく解釈ですが、理由はいくつか考えられます。
- 牡馬が夏に消耗しやすい。体が大きく力に頼る牡馬は、暑さでパフォーマンスを落としやすい。馬体重が落ちて食いが細る夏負けは、馬体に余裕のある大型の牡馬ほど出やすく、相対的に牝馬が浮上します。年齢や性別といった馬そのものの属性で買えるかどうかは高齢馬・性別の検証でも掘り下げています。
- 牝馬は季節で上向きやすい。春〜夏は牝馬のコンディションが上がりやすく、毛づやや気配の良い馬が増えます。これも夏に牝馬を見直したくなる背景のひとつです。
- 軽い馬場との相性。夏の乾いた軽い馬場は、パワーよりスピードや身軽さが活きます。重馬場では牡馬のパワーが効きますが、時計の出る軽い馬場では体の軽い牝馬が前へ行きやすくなります。
いずれにせよ、結果として夏は牝馬と牡馬の差が縮む——これがデータの示す事実です。ここで挙げた理由はあくまで解釈であって、どれが主因かを数字で切り分けたわけではありません。ただ、複数の要因が同じ方向(夏に牝馬を後押しする方向)を向いているからこそ、これだけきれいな山型が出るのだと考えると腑に落ちます。
実践:季節で牝馬の評価を変える
- 夏(特に7〜8月)は混合戦の牝馬を見直す。牡馬相手でもほぼ互角。人気が足りなければ妙味になる。
- 冬の牝馬は素直に割り引く。勝率・回収率とも最低。牡馬相手の混合戦では評価を下げてよい。
- 牝馬限定戦は別の話。本記事は混合戦の数字。牝馬同士なら季節に関係なく必ず牝馬が勝つので、この「夏は牝馬」は当てはまらない。
- 「夏=全部牝馬」ではない。あくまで牡馬との差が縮むという話。最後は個々の馬の力・適性で判断する。
よくある誤解と注意点
この格言は便利なぶん、雑に使うと外し方も派手になります。誤解しやすいポイントを整理しておきます。
- 牝馬限定戦と混合戦を混同しない。「夏は牝馬」が効くのは、牡馬と牝馬が同じレースで戦う混合戦の話です。牝馬限定戦は全頭が牝馬なので必ず牝馬が勝ち、季節の話は当てはまりません。出走表で「混合戦か牝馬限定戦か」をまず確認しましょう。
- 「夏だから」だけで買わない。差が縮むといっても、夏でも牝馬は牡馬にわずかに届いていません。割引を外す材料であって、力の足りない牝馬を無条件に持ち上げる理由にはなりません。
- 人気と妙味はセットで見る。回収率で牝馬が上回るのは「まだ買われ足りない」からです。すでに牝馬が人気を集めているレースでは、妙味はオッズに織り込まれて消えています。狙い目は、力があるのに人気が足りない夏の牝馬です。
- 季節は一年で一巡する材料。夏のうちに先回りして拾い、秋が深まったら通常評価へ戻す。この切り替えを毎年繰り返すのが基本で、一度効いたからと一年中引きずらないようにします。
まとめ
「夏は牝馬」は、地方競馬でもはっきり成り立っていました。牝馬の勝率は冬を底に夏へきれいに上昇し、8月にピーク。混合戦での牡馬との差は夏だけほぼ消え、しかも回収率では夏の牝馬が牡馬を上回りました。
格言を「なんとなく」で使うのではなく、夏は牝馬を買い、冬は割り引く。真夏を待たずに初夏から先回りし、秋が深まる前に手じまう——というメリハリまで意識できれば、より効果的です。出走表の性別欄と開催月という、誰でも一目で分かる情報の組み合わせが、評価のさじ加減を変える根拠になります。古い格言ほど、信じる前に一度データで裏を取る価値がある。今回の検証は、その手応えをはっきり残してくれました。
古い格言をデータで検証するコラムを、ほかにも公開しています。
データコラム一覧を見る →よくある質問
Q. 牝馬限定戦を除いたのはなぜ?
A. 牝馬の勝率が実態以上に高く見えるのを防ぐためです。牝馬しか出ないレースでは必ず牝馬が勝つので、含めると数字が水増しされます。「牡馬と比べて牝馬がどうか」を正しく測るため、牡馬と牝馬が同じレースで走る混合戦だけを対象にしました。
Q. なぜ夏の牝馬は回収率まで高いのですか?
A. 強さのわりにまだ買われ足りないからです。回収率は人気(オッズ)を織り込んだ数字なので、夏の牝馬が牡馬を上回るのは「オッズが甘い」サインといえます。「夏は牝馬」は知られていても、市場が完全には織り込めていないわけです。
Q. そもそも「夏」とはいつからいつまでを指しますか?
A. 本記事では3〜5月を春、6〜8月を夏、9〜11月を秋、12〜2月を冬として集計しています。ただ月別に見ると牝馬の上向きは梅雨入り前の5月から始まり、秋口の9月まで高水準が続きます。カレンダー上の「夏」より少し広く、初夏から秋のはじめが牝馬を見直す時期とイメージすると実戦的です。
Q. 「夏は牝馬」は地方も中央も同じですか?
A. 方向は同じですが、効き方の度合いまで同じとは限りません。もともとは中央でよく語られてきた格言で、本記事は地方でも成り立つかを確かめたものです。地方でもはっきり数字に出ていました。ただし開催の仕組みや馬場、クラスが違うため、地方競馬の混合戦を集計した結果として読んでください。
※ 牡牝混合戦(牝馬限定戦を除く)における牡・牝の成績を季節・月別に集計(2021-01-01〜2026-06-30)。回収率は100円購入あたりの払戻平均。過去データの集計であり将来の結果を保証しません。馬券は20歳になってから自己責任で。

